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R.U.K.A.R.I.R.I | 過去作品「Fate to Fate」 その②
About Circle Board Twitter Link Circle work Mail RSS facebook google+    『R.U.K.A.R.I.R.I』のHPです。
2011.09.03
過去販売作品の公開

リリカルマジカル5で出した本になります。
※販売したものに、一部修正が加えられたものとなっております。

表紙絵・挿絵:まるきゅ~(nine boal) SCHさん

その②です。


挿絵も公開になります。

その①はこちら。。
その③。

01表紙

× × ×

「いかにもって感じの扉だよね?」
 なのはが扉の周りを調べながらそういう。
 数分間歩いてしばらくこの建物内の構造を調べたが、扉は最初に見つけた目の前にある一つしかなかった。他に扉、もしくは扉の代わりにあるものはなかった。
歩いても歩いてもそこには通路が続くだけで、迷路に入ったような錯覚すらするほどだ。これが魔法なのかはわからない。
「そうだね、怪しい感じがすごくする」
 そう、怪しいのだ。いかにも開けなさいと言わんばわかりに存在している。これだけ大きい建物に入り口がそもそも一つだけというのは不自然すぎる。
 中が大きい体育館のようなものであったとしても出入り口は複数あるものだ。それは、非常口の意味合いが大きい。映画館だと、前と背後、側面といったところにあるのをよく見る。
「そうそう、よくテレビとかででてくるようなあぶない展開が待っていそうな気配がぷんぷんだよね。私がやるにしてもこういうトラップをするね。必ず開けるという場所にね」
 あとは不思議なことは、私たちが本来入ってくるはずであった扉すらない……いわゆる入出口。一度入ったら最後とでもいうのか。とはいっても、出入口のようなものはこうして目の前に構えているわけだけど。
 この通路の形状はメビウスの輪? 終わりがない迷路はふいにそんな考えを浮かばせる。
いや、入り口が一つある時点でその可能性はない……? 輪が途切れてしまう。
「なのは忙しそうなのによくそんなの覚えてるね」
 そんなことを考えながらなのはに受け答える。
だけど、この扉の前にたどり着くまで無限に近いルートが存在する。それはバルディッシュが集めたデータによって判別できる。どう歩いても、この扉の前にたどり着くのだ。
「時間があるときによくヴィヴィオと見たりするよ。最近フェイトちゃんうちにこないからわからないかぁ」
 はぁと悲しそうになのはがため息をつく。
「そっか……。なのは、この扉をあけたらトラップで何か起こるかもしれない」
 それにつられて私も悲しくなった。
「うーん、そうだよね……この建物の中に入れたのはいいんだけどさ、ぐるぐるまわるだけで扉は最初に見つけたここにしかない。魔法を使って調べたけど、この扉に向かわないようにぐるぐると移動できる……。フェイトちゃんも同じデータかな?」
 レイジングハートによる分析もその結果ということか……。一体なんの建物なのだろうか。
「そうだね、何か意図的にこういう構造をしているのか、魔法か何かの結界を張っているのかもしれない」
「私たちが入ってきたのは扉じゃなくて、いわゆる空間を捻じ曲げて入ってきたからね。その影響でこうなったのかもしれない」
 なのはが壁を叩く。壁はこんこんとかなり高い音を発した。
「本来は、もっと違う構造をしていたか……。なのは、どうする? 扉はとりあえずここにしかないけど」
 本当は入り口があったのかもしれない。そう、この扉の中にいる、いるかもしれない人物が外に出るための扉。
「そうだね、トラップだったとしても前に進まないと帰ることすらできなさそうだからね……」
 なのはが扉を触る。そして、壁に対して魔法を発動する。ピンク色の魔方陣がなのはの指に集まる。そして、壁をなぞった。おそらく、壁の性質を調べている。
「なのはの魔法でもやっぱり無理そう?」
「うーん、全魔力を照射したとしてもこの壁が破壊できる確率はかなり低いね。とても硬い原石か魔法をはじく結界、素材をしようしている感じにみえる」
 なのははためしに魔法弾を出現させて壁にぶつけるが、穴どこから傷すらそこにはなかった。
 なのはの攻撃で壊せないとなると……、私がやっても結果は同じ。
前に進むしか他ないだろう。
「なら、いくしかないね」
「いこうか」
 呼吸をお互い整え、お互いデバイスをデバイスモードから切り替える。
「じゃぁ、あけるよ?」
 なのはの手には、レイジングハート、私の手にはバルディッシュ。愛機を持って、現場に挑む。準備は万端である。
「うん、いつでもいいよ」
 バルディッシュを握る手に力がこもる。
 突然トラップが発動したり、ガーディアンが襲ってきたりなんかはすごく当たり前のことだ。だからこそ、一番扉を開けるときは警戒をしなければならない。入る一瞬その一瞬は敵にも味方でも重要なポイント。
「ほいっと」
「……何も起こらないね」
 だが、予想を反して何も起こらなかった。扉はきれいに開かれた。そこには誰もいない。誰も私たちに気づいていないようだ。
「ふぅ……」
 何も起こらないのが一番いい。
 もしかしたら、空間を曲げた影響でトラップ自体も壊れたのかもしれない。有り得る話だ。
「とりあえず、入ろうか。入らなければ何もわからないよ」
 なのははレイジングハートを左手で回転させる。
「そうだね、トラップらしいものは感じられないし……バルディッシュも大丈夫だって言ってる」
「うん、レイジングハートも同じ見解だよ」
 レイジングハートが赤く点滅する。
「じゃぁ……!」
 もう一度力強く握り締める。
 何があっても、高速で一撃で決めれば被害は最小に抑えられるから……。
「うん、はいろう」
 そういって、私より先になのはが部屋へと足を踏み入れた。

× × ×

「……!?」
 入ったとき、明らかにこの部屋はおかしかった。
 まず、何も音がしない。
 そして、温度を感じない。
 何もない。
「何も感じないね」
「そうだね、まるでこの部屋が眠っているのか死んでいるのかそんな気配がする」
 孤独という感覚に近いのかもしれない。
「といっても、この部屋の外も同じ感じだったような……でも、何かが違うね」
 外も同じように何も感じない雰囲気であったが、この部屋は一段とおかしい。
 神秘的? 伝承的? なんだか神聖な場所へと踏み入れたという感覚もする。神殿とは違う気がする。
「カプセルか……」
 部屋に入った瞬間にそれは見えた。扉から入ってすぐ左右均等の場所に何かの入ったカプセルが並べられている。何かの実験施設だったのだろうか。カプセルは曇っているのか、ここからは何が入ってるかわからない。
「なんだか、気味がわるいね……」
 なのはがカプセルの埃を指で拭くと中を覗く。
「そう……だね……」
 何かわからないが……見たくない。直感的にそう思った。
「どうしたの? 大丈夫?」
 なのはが指の埃を取るように手を叩くと私を見る。
 なんだろう……、この気持ち……。逃げ出したい? 触れ合いたい? 壊しあいたい?
「うん、平気。なんでもないよなのは」
「そう?」
 そして、なのはは再びカプセルを覗き始めた。
 なのはに心配させたくないために嘘をついた。本当は、すごくこの場所から離れたかった。理由は、おそらく……。
「中は……うーん、何かの身体の一部か、動物……その構成前の素材? かなと思うんだ。どう思う、フェイトちゃん?」
 なのはがカプセルの前からどくと、私にも見てという合図を送ってくる。
 それを断る理由もないので、本当はみたくないがこれも仕事だ……そう、割り切るしかない。
「たぶん……はやてに頼まれたものに関係するものだと思うよ」
 なのはが、そう私に伝える。私はカプセルの中を見たせいで頭にアレがよぎって、あまり凝視することができなかった。
「となると……奥にいけば、そのカプセルのことに関する資料と」
「「頼まれたロストロギア」」
 なのはと声がそろう。
「だね」
「とりあえず、これのデータをとっておくよ。何かが後であるかもしれないからね」
「そうだね、何が起きてもいいようにきちんととっておいた方がいいかもしれないね」
「レイジングハート後お願いできる?」
 レイジングハートが赤く光る。それと共に魔方陣がカプセルを包み込んだ。
「じゃぁ、行こうか」
「そうだね」
 20個ほどのカプセルを越えたあたりでまた雰囲気がかわった。
 なんていうか……
「暖かい……?」
 あまりの違いに咄嗟に声がでてしまった。
「うん?フェイトちゃんどうしたの?」
「なのはは感じない?何かこう胸にくる暖かさを?」
 なんだろう……。どこか懐かしい気もして……、気持ちがいい気もする……。
「うーん、どうだろうなぁ……私はどちらかというとさっきより寒気というか……何か悲しみを感じるよ」
 悲しみか……そ……うなのかもしれない。
 カプセルを背にして、奥へと向かい歩き出す。なんだろう、研究室にしても少し広い気がする。
 この建物はこの部屋しかもしかしたらないのかもしれない、あの扉が外への扉。
 そして、あのメビウスの輪はただのトラップ。魔法が狂ったせいでおかしくなったのではないだろうか。
「なのは、奥に」
 うっすらと何かが見える。
「えーと、あれはうん、本棚……と机だね」
 ここまでくると本格的な研究室のような気がする。
「ちぎり紙……?」
 近くまでくると、いっそう研究室らしくそのまわりにはフラスコや、なんらかの薬品が入った棚、寝るためと思われるベッド、暖房具、その他わからないもの多数。
 カプセルで見えなかったが、他にもいろいろとあったようだ。
とりあえず、目に入った机にある走書きしたかのような紙切れをとる。
赤く、血のようなもので書かれている。
オッペンハイマー……ら……あ…
 とても古くて読めたものじゃない。
 鮮血……ヴィーナス?環境変化……鬼畜……裏切り……?赤、すべて赤。環境……友……オッペンハイマー……王……愛……お、眠……ん……讐……だ……時……恨……のは……ぱい……コロ…コロ……
「……オッペンハイマー?」
 人の名前だろうか? 聞いたことがないな。
 人だとするとなると……その紙と一緒に写真がおいてある、きっとこの人のことだろう……若い男のようだ。
「……他はかすれてあまり読めないね」
あとは読めそうなのはなさそうだ。どの単語も共通点らしきものはなさそうだけど……。
 そういえばなぜ、この机には埃がまるでないのだろう?
 それに紙だって劣化すれば、字が消えるか何かによってなくなる可能性もある。
 他もそうだ……長い年月が経過しているのならばもうすこし空気が悪く、埃が多いと思う。
 なのはがカプセルを指で拭いたときもそうだ、長い年月をかけたものならばそう簡単に汚れは落ちないだろう。
「そうだね……ほいっと」
 本棚から取り出した本をなのはが読んだ文献を乱暴に机に置く。
「なのは、あまり動かしすぎて何か壊さないでね?」
 前科があるからね……。なるべくなのはにはものをもってもらいたくないんだよね。
「ひっどいなぁ、フェイトちゃんは私が何か壊すとおもって……! あ、抜けちゃった」
「だからいったのに……」
 いったところでなのはがそれをやめることは今までの経験上ない。
 むしろ、やめてというともっとはげしくやるタイプだもん。
「あはははまぁ、古いから壊れやすいんだよ。大丈夫、大丈夫。問題なしだよ」
 そういってまたなのはは、壊れた棒状のものを投げ捨てると他のものをつかむ。
「確かにはやてから頼まれたのが発見できれば問題はないけどさ……なるべく現場はそのままにしたほうがきっといいよ……」
「そうだけどさ、こうものが……多いとさ…って、あぁまたとれちゃったよ……」
「はぁ……」
 私は頭をかかえるのであった。

◇ 数分後◇

 現場はひどく荒れていた。
 理由は簡単、いろいろなものをなのはが壊し続けていたからだ。
 だからいったのに……はぁ……。
 ため息が止まらない。
「フェイトちゃん、どうやらユニゾンデバイスのような起動実験みたいなのをオッペンハイマーという人が行っていたみたいだねここは」
 なのはが赤い資料を見ながらそういう。
「うーん、そうだね。はやての資料には『古代ユニゾンデバイスのロストロギア! めっちゃ注目や!! どんとこいや!!』と書いてあったからね、これに間違いないと思う」
「そうなると、やっぱりあのカプセルが怪しいね」
「そうだね、いかにも、だものね」
 カプセルを見るとあのこを思い出す。
 そして、母さん……プレセア・テスタロッサを。
「……大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。今は……」
 今も大丈夫。昔とは違う。違うんだ。
「?」
「いこう」
 そう、今は仕事に集中しなくちゃ。
「オッペンハイマーという人が作ろうとして、そのための20個のカプセルそして、そのいくつかは彼に思いを寄せてくれた人の亡骸と……親しい友人……恋人?」
 なのはがキーワードを述べる。
 なぜ、そのようなものを使用しなければならないのか。亡骸は、個人を識別するものだからなのか?
「あんまり、よろしくないものだね……」
「そうだね……これも愛……なのかな?」
「そればっかりは本人に聞くしかわからないよ。それにそうしなければならない事態がそのとき起こっていたのかもしれない」
 そうしなければならない事態か……まるで、母さんが私を作ろうとしたことのようだ。
「過去はわからないか……記録さえ残っていればわかりそうなんだけどね」
 きっと、それはロストロギアに近づく何かの手がかりとなるだろう。

「そのロストロギアはな……なんていうかあるいわくっちゅーやつをもっていてね……まぁ、だからこそ回収指令がでたわけなんやけどね」
 はやて、データコンソールを開いて資料を検索する。
「惑星浄化システム? なんかその星をきれいにするためのロストロギアみたいなんや、えっと、これはこっちでこれはここやね……だぁあああああああああああああ、誰やここになのはちゃんの画像をいれたやつは!!」
 
 ふとはやてがそういってたのを思い出す。惑星浄化システムというのであれば……なぜ、人を媒体とするのだろうか……?
 元来たところを戻る私たち。といっても、戻るという距離はあまりない。目の先、カプセルがあった場所へと戻るだけだ。
「フェイトちゃん、あの奥のカプセルだけ他のと違うね。完璧に人の形をしている」
 なのはが指差す方にあるカプセルは確かに人の形をしたものが入っている。
「なんだろう……入ってきたときはこんなのはなかった……ような気がする」
 他のカプセルには人と呼べるかわからないものと、何が飛び出したのか破壊して誰かにもっていかれたのかきれいな丸い円があいたカプセルがあるだけだ。先程は埃がかぶっていたような気がするけど……?
 何かの魔法が発動……した?
「そうだよね、バルディッシュ?」
 バルディッシュが同意と答える。
「よく見てなかっただけじゃないの?」
「そうなのかなぁ……」
 うっかり見落とすというのは誰にもあると思うけど……
 確かに左右どちらのカプセルも確認して何もないことを記録したはず。
「にゃははは、フェイトちゃんうっかりやさんだもの」
「え、私うっかりやさんじゃないよなのは!」
「こないだだって……むっ!?」
 急いでなのはの口をふさぐ。何を思い出したのかはわからないが、言われたら仕事どころじゃない気がした。
「思い出さないでいいよ、なのは。今はこっちを優先しよう」
「ぷはぁ、そうだね。あとでゆっくり話せばいいよね♪」
 笑顔が怖い……それに後でなんて話さなくていいからね。
「うーんどこか、このカプセルのコ、少女に見えるね」
 なのはがカプセルの前でうでを組む。
「うーん、どこかというか本当に小さい女子が入ってるみたいに見えるね」
 アリシア……。アリシアもこのぐらいだったろうか……アリシアは、そもそもこの場合と違うけど……。
「フェイトちゃん大丈夫? 悲しい顔をしているよ」
「え、うん……ちょっと、昔のことを思い出していたんだ」
「そっか、フェイトちゃんは笑っている方が素敵だよ」
 なのははそういうと、下に散らばっているカプセルの破片を調べ始める。
「……きれいな切り口だなぁ……SFものでいうレーザー……ビームセーバーとでもいっておこうか。そんな感じなのでこうくるっとまわしてあけたか、中から高圧縮魔法のようなものを一気に放出した……か。うーん……なんだろう、お、中は結構ひろいね、ちゃんと管があるところをみると……バイオ的な感じがする。やはり、ここを使って実験を行っていたのだろうなぁ。でも、なんで他に少女のようにのこっていないんだろう……そのまえの工程みたいのはあると思うけどさ」
 なのはが壊れたカプセルの中を覗く。
「とりあえず、こっちの方触ってみる?」
 覗き終わったなのはは笑顔でそういう。
「触るの?」
 ほんと、なのはは最近何にでも触るよね……ヴィヴィオの影響なのかなぁ……
「うん、カプセル全体をね。魔法を使った場合のデータもとるけど、やっぱりこうして直接触らないとわからないこともあるよ」
 なのはが人の形、――少女の形をしたカプセルへと手を伸ばす。
「うわぁ!?」
 突然、カプセルの中の少女が目を開けると地面から煙が現れた。
 その煙はなのはごと隠すかのようにカプセルを覆い隠す。
「な、なのは!?」
 手を伸ばすが、その手は何もつかめなかった。
「なのは!!」
 何回やっても手に物体の感触はなく、煙が通り過ぎたという感触しかなかった。
「なのはぁあああああああああああああああああ!」

× × ×

 ……?
「あれ……身体が……、どうしてだろうね、フェイトちゃん?あ、あれフェイトちゃん?」
 私の身体は小さくなっていた。
 魔法とは違うようで元の姿には戻れないようだ。
 さっきまでそこにいたはずのフェイトの姿は周囲には見えない。
 今まで見ていた景色でもない。
「ここ……どこ……?」
 フェイトだけでなく、そこはものというものがない真っ白な空間。
 光の世界……、いや、そんな世界はない……。
 というと誰かに閉じ込められた? 
 閉じ込める理由があるのだろうか。それにこの姿……は、なんだろうか。
 暫定な解答として考えられるのは、あの目をあけた少女か。
「うーん、フェイトちゃんいないしここはわからないし……さてどうしようか……」
 なのはが空を見上げるとうっすらと何かが見えてくる。
「オッペンハイマー……?」
 確か……そんな名前の写真を見た気がする……な。
 まずは、ここから出る方法を探そう。はやくでないとまずいことが起こるそんな気がする。
「うふふふふふふ」
 どこかで女の子の笑い声が聞こえる、それとともに何かの気配がした。

× × ×

「……」
 煙の中からなのはが現れる。
 その位置は何度も手を伸ばしたはずだ、そこにたっているはずはない。
 立っていたのなら、なんらかの感触が手に残るはずだ。そう、身体の温かい感触が。
「なのは? 聞こえたのなら返事を返してほしかったな」
 なのはの手をとろうとすると、はじかれてしまう。
「えっ!?」
 なのはが私を……?
「……我はシェイミー、お前がいうなのはという名前ではない。そのものはもう消えた存在」
 鋭い眼光をなのはが私に向ける。
「な、なのは?何を言っているの?」
 シェイミー……、確か資料にそんな名前が書いてあったような気がする。何かの冗談? 冗談だよね、なのは?
「はん、だからいっておろう。私はなのはではない……とはいっても、今じゃ同じ存在だがな」
 シェイミーと名乗ったなのははレイジングハートを肩にかつぐ。その動きから、なのはを感じられない。
 そう、なのはと感じるオーラはそこになかった。
「……なのはに何をした……なのはに何をしたんだ!」
「さわぐなさわぐな、別に何もしていない。しいていえば、私と一つになったんだ。私の…私たちの願いをかなえるために、そのための媒体というのかな」
 何を……いっているの?
「私たちの願い……?」
「そう、オッペンハイマーさまの願いを成就すべき私たちの願いを……だ。そうだろう、なのは……?」
 シェイミーは、自分の中になのがいるかのように話しかける。
「そ、そうだね」
 同じようになのはが声を出す。それがシェイミーの声なのかわからない。
 同時に受け答えしているだけにもみえる。
「な、何をいっているの? 何を考えているの? なのは!? おかしいよ……おかしいよ!」
 バルディッシュを構える。
 な、なのは相手に攻撃ができるの!?
 ど、どうして!?
「もはや、このカプセルも必要ない!!! ディバイィィィィンシューター!」
 なのはは私に後ろをむけると、いくつものディバインシューターを出現させカプセルを次々と破壊していく。
 人の形をしたものやその他はその魔法で次々と破壊され、破片と肉塊……パーツ、塵へと砕かれていく。
 その魔法は確かになのはのもので、すべてを破壊していく。
 笑みをしながら……。
「なのはやめて!!」
 バルディッシュをデバイスへ戻し、なのはの暴走をとめるべく後ろから抱きしめる。
「……うっ…! 邪魔を、するなぁあああああああああああ」
 なのはは私がつかんでいた手をレイジングハートで払いのける。
「っ!?」
 手の痛みより、違う痛みを私は感じた。それでなのはを抱きしめた手を離してしまう。
「うっさいなぁ……!」
 吹き飛ばされた私が見たなのはの顔は、他人を見下すとても暗い顔だった。
 なのははこんな顔をしない。
「い……いやだ」
 そんな顔をして私を見ないでほしい……なのは……。
「たく……めんどくさいや……ディバイーン……バスター!!」
 私の声は届かない。なのはの魔法がただ一直線にカプセルを巻き込んでいく。それは止まることなく最後のカプセルまで巻き込んだ。
 なのはがいうようにシェイミーが感じる邪魔なものを破壊していく。
「なのは! やめて! くっ……足が!?」
 なのはをとめようと手を伸ばすがなぜか、足がなのはの元へ思うように動こうとしなかった。
 傷、骨さえも砕かれていないのにどうして……!?
「なのは……どうして……」
 ては届かない。
「うっ……頭が!! くそ……!!あいつか!?」
 だが、私がなのはをとめることなくなのははとても痛そうに顔を苦痛で歪ませながら、止まった。
「なのは待って!」
 なのはは頭を抑えながら部屋の奥へと走り去った。
「足が……!どうして!」
 すぐになのはを追おうにも足は依然として動く気配はなかった。
 それは何かに取り付かれているようにすごく重たかった。

× × ×

「動く……!」
 しばらくして足は何事もなかったかのように動くようになった。
 走り去った場所へと急いで向かう先には、昔から見てきたあの少女のシルエットが見えた。
 見間違えるはずがない。
 いつもあの笑顔で私を抱きしめてくれる、私の友達。
「逃げたところで結局は何も変わらないよ」
手を少女へとさしだす。
なのはなら、私を受け止めてくれる。
「……現実は、こうして私はちいさいまま。そして、力は暴走していくだけ。フェイトちゃんには何もわからないんだよ」
「正気に戻ったの?なのは」
なのはは、私の手を思いっきり払いのける。
「はん!」
「あっ!」
「いやだいやだいやだいやだ……! 私の手は赤く染まっているの! もう、戻れない!」
 なのはは手を強く握り締める。
 その手からは、血が滲み出ながら、その中からうっすらとピンク色の魔力光が輝いていた。
「でも、それはロストロギアの被害であって、決してなのはが起こしたことではない!」
 正確には、高町なのはがシェイミーにのっとられたという形。
 それにあれは、人ではない、資料を見ればわかる。
 なのはは誤解しているみたいだけど、あれは人の形をしたもの……
 私のようなクローンとは違って……
 ただの血の塊のようなもの。
 だけど、そんなことは些細なことでしかない!
「なのは……私と帰ろう? シャーリーならきっとなんとかしてくれる、だから……」
 そう、ここでは解明できなくてもきっと管理局・本部へと戻ればなんとかなる、きっとなる。
「もう、遅い。遅いんだよ! 私にはどうにも止められない! 身体が勝手に疼いて動いてしまうんだから……!」
その言葉と同時になのはの手の中で圧縮されていた魔法弾が私に目掛けて飛んでくる。
数は、3つ、どれも触れただけでどんな爆発力、能力を秘めてるかわからない!
「なのは!ま、待って!」
 伸ばした手は、またもやなのはへと届くことはなかった。
 そのかわりに向かってくるのは、ピンク色の発光体。
「フェイトちゃん、次会うときは最後だよ……どんな形になるかはわからないけど……再び会ったとき、たぶん私はもう自分を抑えることができない。だから……本」
そうなのはが言いかけてその場から消えた。
 消えたのは、あのシェイミーの魔法かこの研究室にある装置なのだろう……か。
「な、のは・・・・・・!?」
 悲しみに浸ってる場合ではない、目の前に迫りつつあった魔法弾をよける。
「く!?」
 バルディッシュで切り裂いてみるが効果はないみたいで、輝きは鈍らなかった。
「はぁああああああああ!」
 ならば、同じように魔力を圧縮して攻撃するしかない。
「っここだ!」
 金色の斧から、光の刃が発射される。その光に向かうようにして、魔法弾は消え去った。攻撃命令はおそらく私に向かってまっすぐ飛んでいくという命令であったのだろう。
 その命令により魔法弾三つが一直線にならんだところをアークセイバーで切り裂いたのだ。
「まずは、ここからなんとかしてでないと……」



× × ×

「そう、なのはちゃんが話していたのか?」
通信コンソールではやてに連絡をとる。
 情報は的確に伝えることが今後に起きる可能性を、被害を最小にすることにつながる。
シェイミーこそが、はやてが調査を求めたロストロギアである可能性が高いとはやてはいう。
なのはと正体不明のロストロギアの融合。
 もしかしたら、生きる怪物になってしまったのかもしれない。

 ――魔女……魔王……、そんな存在に。

 でも、なのははそんなのは望んでないはずだからこそ、あの最後の言葉はきっと私に対するメッセージなんだ。
「うん、だからはやてにそれを調べてほしいんだ」
「うーん、フェイトちゃんがいうように実質被害はでてないよ。何かあったときのためにスタッフが上空にいたけど、壊されたのは地表に放った調査用機材のみやし……。まぁ、実際はティアナが仕掛けておいた幻惑魔法が作動してうまく発見できなかったんやろ。さすが、ティアナやな。それでな、スタッフの人はだーれも怪我してへん。普段のなのはちゃんじゃ、見つけられないなんてことは、あんまり考えられへんことやね。勘が鋭い分余計にな。そういえば、どうやってそのメビウス? の不思議空間からでたん?」
 そう、あの中では通信は通信波の影響というよりかは起動自体封じられて不可能であった。
 だから、研究室から急いででようと考えた。
「えーと、なのはがいなくなった後、扉をあけたらもうそこは外だったんだ」
 考えたのがあのときは本当に馬鹿らしく感じた。
「それは拍子抜けな話やね」
 誰が、あければそこはもう“外”につながっていると考えるだろうか……。
 いや、普通に考えれば外だと思うかもしれないがメビウスの輪を体験したものにはそれが普通には思えなかった。あれはきっと、あの“シェイミー”を外に出さないための結界……もしくは彼女を守るための結界……? だったのかもしれない。
 それとも他に別のことのためのものなのだろうか?
 今はなんとも言えない。
「となると……なのはがいうのはあの研究所にあったあのカプセルの中身かな……でも、あれは具体的には何かわからない……錯乱していたから人だと脳内が認識していたのか……」
 そう一度なのははあの中を見ているのだから……錯乱しているか、幻覚を見ているかのどちらかである。
 いや、私が錯乱、もしくはそういう魔法にかかっている可能性もある。
 だが、こうしてなのはが暴走状態になっていることは事実である。
「それか、その対象……ロストロギア“シェイミー”のもつ記憶なのかもしれないな」
 はやてがぽつりとそのようなことをいう。
「ロストロギアの記憶か……となると、この先の未来彼女がいう願いをかなえるために必要なことを行う可能性があるかもしれないね」
 私たちの願い・・・・・・か。
「私もこっちで居場所を探してみるよ、その惑星にいるのは間違いないからおそらくフェイトちゃんが見つけるのが早いと思うけどね」
「うん、ありがとうはやて」
「そうだ、もうすぐヴィータがそっちにつくよ。ついたら、ティアナの方に回ってもらおうかと思ってるんやけど、それでいいかな?」
「うん、テ、ティアナから何も連絡がこないのが心配だからお願い」
「う、うん? 了解や」
 べ、別にティアナのことを忘れていたわけじゃないんだからね。
 なのはのことで頭がいっぱいだっただけなんだから!

 本当だよ?

「わかった、そう伝えておくよ。見つけ次第なのはちゃんも探すよう言っておくね」
 となると、なのはを探すのがはやいだろう。それが一番の重要事項。
「そう、遠くへはいってないと思うし……」
 風がふいていないのに、どこか風を感じる。
「いやな……風だな」
私は、目を閉じて周囲の魔力反応をその風を忘れるかのように感知し始めた。
「……」
 あっちか……。
 魔力を探さなくてもなんとなくなのはの居場所は感知できる。
 それは、あの暖かい環境と厳しい環境……そして、あの魔力のまじわいが何か関係があるかもしれない。
「深く考えても意味はない……か、なのは……今助けにいくよ。だから待っていてね。本当のなのはは私を守ってくれる王子様みたいな人なんだから」
 だからこそ、今度は私がなのはを救うんだ。
 ――私だけの王子様を。



その③に続きます。
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