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R.U.K.A.R.I.R.I | もう何も怖くない3用サンプル
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2011.11.14
魔法少女さやか☆マギカ 

サブタイトル「Spiral of Sky」

サイズ   A6
ページ数  154

2011/11/14 再修正


下記、サンプル。


――はじめに





この作品には、グロテスクな表現や過激な表現が含まれています。
そういった表現が嫌いな方にはあまりお勧めできない内容となっていますので、
ご注意ください。
――閃光が空に散る。
何度も何度も繰り返し爆ぜる。その閃光は爆発の開始点で、光を放った場所から次々に起こる。爆発音は爆発の規模と違ってほとんどしなかった。爆発音に代わり、物がちぎれるような音が周囲の至る所で発生し響き聴かせる。それと共に少女たちの声が駆け巡る。
「くわっ!」
その閃光と爆発は、魔法少女と魔女のぶつかり合いによって起きていた。
魔女の気配を感じ取った魔法少女らが魔女の結界に入り、そこの場所を支配する魔女と戦っていたのだ。
『魔女と魔法少女』というインキュベーターが引いたレール通りに少女たちは動く。それを知っている少女はほとんどいない。そのシステムの部品として、少女たちは働き続ける。
「これで……!」
少女が地を駆け、走りながら使い魔を倒す。それが一匹、二匹と消滅する。魔女が手を指揮棒のように使い魔を操る、魔法少女を殲滅する。それをするために。魔法少女はそれを倒す。
「はぁ!」
 少女の動きが直線のようにある点から次点へと高速に移動し、使い魔を倒す。そのたびに魔女が断末魔に似た悲鳴をあげる。使い魔が徐々に数をなくす。
「はぁ……はぁ……ふぅ」
その数分における戦闘結果は魔法少女の勝利で終わりを告げた。そして、それは同時に魔女の敗北を意味する。その証として、地面へとグリフシードが音もなく落下した。
――グリフシード。それは魔法少女たちが倒した魔女が時々落とす魔女の卵。魔法少女が消耗した魔力を回復させるために必要なもの。
「ふぅ……、これで大丈夫ですよね?」
 少女が呼吸の乱れを落ち着かせるようにそう言って、グリフシードを拾うと戦っていたそのものに振り返る。
――それ以外には誰もいない。二人の魔法少女がそこにいる。魔女の結界内には、魔女はもちろんのこと使い魔の存在すらもうそこにはなかった。
あるのは魔法少女と呼ばれる“システム”に該当するモノのみ。
「そうね、“大丈夫”じゃないかしらね」
そのものが答えると笑いかける。
「そうですよね。ふぅ、疲れた」
その笑い顔には邪気が一点もなく、きれいな笑い顔であった。少女はその表情に安堵していた。それにいつも励まされ、ときに一緒に笑った。だからこそ、落ち着いていられた。そのものが大丈夫といえば、大丈夫なのは当然。そう思っている。
「……どうかしたんですか?」
 だけど、ただ一点だけそのものに不審を感じたのか、少女が尋ねた。
「どうしてそんなことをいうのかしら?」
 ――そのものは決して表情を変えようとしない。
その笑顔が綺麗すぎたのだ。笑い方にはいろいろあるが、そのものの笑顔はその中でいわゆる無垢なる笑顔。けがれがなく純真。だからこそ、逆に恐怖を感じた。その笑顔に何も感じない。笑ってはいるが、そこに何も意味を持っていない。
「だって、だったらなんで“まだそのマスケット銃を構えている”んですか?」
 少女の言葉通り、そのものは左手でマスケット銃を構え、右手でいつでもトリガーを引けるようにしていた。
 ――その狙いは、少女。
少女に向けられていた。少女はそのものに手を伸ばすと右手をあげる。だけど、少女の位置から距離にして3メートルほども離れていた。決して、その手は届かない。
「それはね――」
 そのものの言葉が発すると、甲高い『パン』という音で発言を隠すようにかき消された。
「えっ!?」
 少女はそれがなぜ起きたのかわからないという表情をする。することしかできなかった。
 わけがわからない。今の自分に起きているこの現実が……。だけど、それは現実だった。
「ふふふ」
 少女の姿をみて、無垢なる笑みから別の笑みへと変わった。それはいつもの笑顔と違い、どこか暗い印象を少女は受けた。口元がいつも以上に緩んでいるように見える。
「どう……して?」
 少女が苦しそうに片膝をつくとそうつぶやく。少女の左肩から少女の服を赤く染める血が流れていた。左肩を抑える右手の指の隙間から赤く染まっていて、血の流れを止めることが出来ていなかった。
 そのものの手に握られたマスケット銃から、白煙が空へと上がる。そのものが少女を撃ったという事実をつきつけるように。
「どうしてなんですか、“  ”!」
 少女がそのものの名前を呼ぶ。
「……」
 少女の問いにそのものは答えない。それが当然というように。その代わりにと言わんばかりに少女の目の前にマスケット銃を投げ捨てた。
そのもののマスケット銃は単発式。一発撃てば違う銃にリロードする。単発式であるが魔力が尽きない限り、マスケット銃として弾は無限に召喚できる。
「ふふ、さぁどうしてなのかしら?」
 そのものはその場で一回転をすると、さらにその場に大量のマスケットを召喚する。その数は30個を軽く超えていた。その中の1つを取ると照準を少女に合わせようとしゃがみサイトを覗く。
 たったそれだけのことであったのに、少女は恐怖という寒気を感じた。
「ッ!?」
 マスケット銃の音が周囲に反射するよう響き渡ると、少女の身体にその痕跡があらわれた。真っ白な地面であったものが、少女が回避行動を取ったため赤い血で直線が引かれた。
「ぎゅ……!」
少女の身体から赤い血が勢い良く飛び散る。撃たれた瞬間に少しだけ回避行動を取ったおかげでそれだけの傷ですんでいた。長く一緒に戦っていたためか、射撃の傾向が頭の中に入っていた。それを考えた上での回避行動であったが結果は、失敗だった。その現状が今の結果であった。
「うぅ……」
何発かは少女の身体を貫いていた。少女の目に先ほどまで自分がいた場所が目に入る。厚さにて2cmほどそこの表面が削れていた。
「ッ!」
――少女の脳内に回避をしなかった場合の未来図が頭に浮かんだ。
少女が立ち上がろうとするが、先ほどと同じよう痛みにより膝をついてしまう。
「……っ」
少女は痛みを軽減しようと頭を左右に振るとそのものを見つめる。
「や、やめてください! どうして、どうしてこんなことをするんですか! 教えてくれたのはあなたなのに! あなたは私たちの先輩のはずなのに!」
 叫び声をあげた少女が痛みに耐えかねてもう片方の膝もつく。そして、少しでもマスケット銃の射程距離から離れようと、撃たれた足を引きずりながら後退していく。傷口から流れる血は少しずつ弱くなっていくが、傷口を完全に止めることは少女の残る魔力ではすることができなかった。ソウルジェムは徐々に漆黒の黒へと変貌を遂げていく。
少女の白かった服が赤く染まっていく。それは最初からあった服の装飾のように、赤と白の縞模様が出来上がる。
「どこへいくの?」
 そのものがその場を軸にするとすばやくマスケット銃を拾っては撃ち、拾っては撃ちと4回の銃声が鳴り響く。
「くぅ……!」
4回の銃声は少女を的から外すことはなかった。
両手首、お腹、右肩、右足。そこから、血が少女をさらに赤く染め上げる。さらなる追撃を受けた少女は口を食いしばりながら、足に鞭をうち動かす。
後ろへ、ただまっすぐ。少しずつ確実に距離をとろうとする。しかしながら、移動速度は先程の半分以上も出ていない。
「……」
 やはりそのものは答えない。
 答えようとしない。ただ、機械のように狙いをつける。サイトを覗く。それを繰り返す。
 ――的は外さない。
本来狙うはずの魔女はそこにいない。
その的は、魔女ではなく“少女本体”。
 覗いてしまえば、後はトリガーを引くという作業を残すのみ。その作業はサイトを覗いて的に狙いをつけるよりも数倍早い動作で行える。
少女はそれを止める術を持っていない。ただ、動かない身体に鞭を入れるのみであった。少しでも離れるために。
「はぁ……はぁ……痛みが止まらない……、魔女との戦闘に力を使いすぎたから……? それともあの人の能力!?」
 少女が動く。それから逃げるように。少女が発する声には必死さしかなく、余裕は感じられない。
 ――少女は知っていた。
例え、後ろへ後退したとしてもそのものの射程外へいくのはこの足では無理だと。それに少女と違って、そのものの両手足とも目立った負傷はどこにも見当たらない。だから、逃げたとしても追いついてしまう。
だけど、少女はそうするしかなかった。目の前の恐怖から逃げるために足を動かす。
「……はっ!」
 そのものが声を発すると少女にむけて胸から何かを飛ばした。
 それは避けられることなく少女へと辿り着く。まるで最初からそこにあったかのように。

 ――黄色いリボン。

 黄色いリボンが少女の左足に取り付き、咲いた。
「えっ!?」
 そこからのことは一瞬であった。
 少女の左足に咲いたリボンから多数のヒモが一斉に少女の身動きを封じるために動く。
 それは植物の根のように少女の身体を絡めとる。
「こ、これは、リボン!? と、とれない」
 少女は身体に絡まるリボンを解こうとするができなかった。動けば動くほどよりそれは強くなっていく印象を少女は感じて焦り始めた。
 それは、少女がこのあとに起こることを知っていたからだ。
 射的の的がなぜ動かないのか……。それは撃ち落とされるためにそこに置かれているからだ。ならば、魔法少女が魔女を封じ込めるために使う魔法はなんのためにあるのだろうか。
 ――そう、それは魔女を倒すため。
 敵を倒すために、動きを封じるのだ。つまり、動きを封じられた少女が待つ運命を必死に回避しようと試みていたのだ。
「くっ……!?」
 右手、右足、左手、左足と完全にリボンが少女の動きを封じ身体に巻き付く。その頃には少女は地面に仰向けに倒れていた。
 そのもの頭を差し出すように。その姿は一見すると、芋虫のようにみえる。
「……あなたは、私のエサだったのよ。いえ、“私たちの”」
 そのものがそういうと、足元にさらに大量のマスケット銃を召喚する。撃ち終えていたマスケット銃は既に魔法で消失済みであるようで、近くに落ちていなかった。
「……ねっ、“シャルロッテ”ちゃん」
 そのものが、少女ではない何かにそう話す。その目線は、少女の後ろの方に向けられていた。そこに存在しないはずのものがそこにはいた。
「……?」
不審に感じた少女が動けない身体を懸命に動かす。後ろを振り返ると、ピンク色の長い耳をもった人形のような形をした生き物がビーズが転がるようなかわいい音をたててこちらに歩いてくるのが見えた。口元には何か茶色い液体がよだれのようについている。
「えっ!?」
それは、魔女と呼ばれる存在だった。少女たちが倒した魔女とはまた別の魔女。
「どうして、ここに魔女がいるの……!? 魔女は倒したはず! ま、まさかそんなことは……」
 少女がまわりを見渡す。まわりは先程と同じ魔女の結界の中であった。
 ――魔女。
それは不安や猜疑心、過剰な怒りや憎しみといった禍の種を世界にもたらす存在。
そして、魔法少女が倒すべき敵。少女は気づくべきだった。なぜ、魔女を倒したのに魔女の結界がなくらならなかったのかを。
 でも、そのことに気づくことはできなかった。その場所には、少女が二人。
二人しかいなかったのだから。だから、気配も何もない。
「……!」
 シャルロッテと呼ばれた魔女は、口を開けると何かを話すかのように口元を動かす。
「……えっ!?」
 でも、それは少女には何を言っているのか聞き取れなかった。むしろ、何かの音が出ているのか今の少女には判断する力さえ残っていなかった。耳が遠くなってきているのだ。
「そうね、“そうしましょ”」
 そのものには声が聞こえているのか、手に持っていたマスケット銃を少女へと向ける。
「ね、やめましょう? 私たち魔法少女は……ぅ!?」
 1発、2発、3発とそのものの足元に存在するマスケット銃が少女へ次々と放たれる。 それと共に少女から声が痛覚を感じさせる声が発せられる。
「はぁ……はぁ……」
 発砲が終わった時、少女のまわりには赤い貯まりが存在していた。
 ――血溜まり。
 それは、少女の身体から流れそこに落ちる。黄色かったリボンの拘束ももう血で黒く濁っていた。
「あ、ぐっぅぅぅ!」
 少女の悲鳴が一瞬その場に響き渡ると、もう少女の声がそこで聞こえることはなかった。
「……ふぅ」
少女の身体が一定のリズムでビクンと痙攣を繰り返す。それを確認するように見たそのものは、少女をリボンで空中に上げると地面へと何度も身体を引き伸ばすように叩きつける。まるでこねて空気を多く入れ込むように。
「はぁ!」
 そして、最後の一撃を加えると確かめるようにその動きを止める。少女の痙攣が完全に止まっていることを確認すると、
「ふふ、これで大丈夫」
 とつぶやき、少女だったものを地面へと下ろした。
「ね。……シャルロッテちゃん?」
 そのものがふりかえると、嬉しいのか一度ジャンプをしてシャルロッテと呼ばれた魔女が少女に向かって歩き出す。
「……ぁむ」
 ただ、むしゃむしゃと何かを噛み砕く音だけが響き渡る。
「……?」
 口元を赤く染めたそのものが何かを発見したのか、
「かかかか」
 と、声にならない声で笑った。

 ――チーズはまだ見つからない。

 と、誰かがつぶやいた。

☓ ☓ ☓

「ぁむ……」
 水色のパーカーを羽織った佐倉杏子が、公園の看板に寄りかかりながらポッキーを頬張るように食べていた。表情は無表情でお菓子の味を感じていないようで、食べる作業を必要としているようにただ口に物を入れていた。それとともにスナック菓子特有の音が鳴る。子供がそれを覗いて、ほしそうな顔をちらつかせていたが、杏子が見つめると逃げてしまった。
「はぁ……」
 杏子が虚しく溜息をつく。内心では、驚かすつもりも睨みつける気もなかったと感じていたが、すぐにどうでもいいやと開き直っていた。
その隣には食べ終わったと思われる食べ物の残骸が積み重なっていた。数にして、10箱。
およそ20cmものさし程度まで積まれていた。中身がなくなってきた菓子袋を上下に揺らし、残りの食べ残しも左手に出すとぺろりと舐める。
「……あ」
その顔はまだ足りないと嘆いていた。
とはいっても、杏子のもっていた食べ物はそれが全てで、ポケットを何回も調べても何も出てこなかった。当然、それが最初入っていた白い袋には何もない。食べ物が入っていない食べかすのゴミだけがそこにある。
「はぁ……」
 お菓子もなくなったので、杏子は景色を見ることにした。他に時間を潰すものがここに何もないからだ。
当然ながら公園と呼ばれる場所であるため、ブランコ、砂場、アスレチック、鉄棒と遊べるものは存在していた。しかし、当たり前というべきかそこは小学生ぐらいに見える子供が専有していて、楽しそうに遊んでいた。
杏子はそこに入って邪魔するつもりもなかったので空を見上げていた。雲がゆっくりと空を流れている。そこに絶望はなく、どちらかといえば希望があるように見える。だがどこにも希望がないことを杏子は知っていた。
 ――魔法少女という絶望。
その中に杏子はいた。それでも杏子は希望となる光に触れようとしていた。帰ることのできない現実。でも、この現実に入れないようにすることはできると杏子は考えた。
視線を下に戻すと目に入るのは、下校途中の学生。
杏子はそれをつまらなそうな目で学生の通行を見つめる。学生の幾人かは帰宅する時間帯であり、男子生徒、女子生徒と数多くの人が歩いている。それ自体に興味はまるでなかった。興味があるのはただひとつ。
――とある女子生徒。
歩いてくる学生の中に探している女子生徒はいなかった。
 時刻は、16時。
その人物はだいたい同じ時間に帰宅する。大抵は、ピンク色の髪を持った少女か、緑色の髪の色をした少女と一緒に帰っている。
そういうときはまず杏子はまず話しかけない。
それは関わり合いを持ちたくないというのと、人との交流を極力さけていたからだった。それは群れないと己に決めていたため。だからその女子生徒以外とのコンタクトをしようとはしない。
 探している少女の髪の毛は青髪のショートカット。
性格は少し生意気で、でも本当はすごく優しい娘。
――名前は、美樹さやか。
そして、かつてこうあろうとした自分を思い出させてくれる娘。杏子が希望を感じる唯一の少女。だからこそ、杏子はさやかの現状を守ろうと思っていた。
“魔法少女”として。
はじめはささいな出来事だった。さやかが生き物を救おうとした。
――それも命がけで。
それに気づいた時杏子は救っていた。たったそれだけのことなのに、それから杏子はさやかが気がかりになり、現在まで至っていた。かれこれ数週間前のことなのだが、前日のできごとであるように杏子は心のなかで感じていた。
それぐらい杏子にとってはイレギュラーなことであった。未だになぜそうしてしまったのか、杏子の頭にその答えはなかった。それを見つけるためにさやかに近づいたのだと杏子は自問する。しかし、それ以上にさやかといる時間がとても有意義なものだと認識していた。
「あ……!?」
 その娘を発見して、おもわず杏子から言葉が溢れる。その声は陽気で心の中がそのままあらわれているようであった。
 青髪の少女、さやかが坂上の通路奥から歩いてくる。服装は他の学生同様制服を着用しており、周りに友達はおらず、一人で空を眺めるように公園と向かって歩いている。その顔はどこか退屈そうでたまにあくびをしていた。
それを見て、くすりと杏子がにやけた。
 さやかが歩いてる坂道は、学校からさやかの家までの通学路でいつもさやかはこの坂道を使っていた。坂を登れば学校に続く道へとつながっている。他の生徒や先生等も使っているようで、道としてはかなりきちんと整備されていて小さな子どもや、年寄りも歩くのに苦労しない。
 だからこそ、こういう中間地点のような公園も置かれていた。そこをいつも杏子はさやかを待つ拠点として陣取っていた。
 この街で他に知ってる場所はそれほど多くなかった。ゲームセンターがある位置、巴マミの部屋、暁美ほむらの部屋、美樹さやかの部屋。たったそれだけだった。
「さーやか。学校終わったのか?」
 公園の看板に寄りかかっていた杏子がさやかの近くまで飛び跳ねると、そう話す。
その距離3メートルといったところか。さやか以外が見たらそれは驚く距離だ。幅跳びの大会に出たら、おそらく入賞できる程度であろう。
そのことを注意しても直そうとしないことをさやかは何度も経験していて知っていた。だからこそ、さやかは『はぁ』とため息をつくだけで何もそれについてコメントしない。
「……あ」
 さやかははじめてさやかがそれを見たときは驚いて、腰を抜かしそうになったのを思い出して少し顔を赤くした。
とはいっても、最近は“暁美ほむら”というもう一人の超人のような人間を見ているせいか、さやかは杏子のそれを不思議に感じることが少なくなってきていた。
暁美ほむら……、転校生で心臓が弱いと言われていたはずだが勉強はできるし、運動もそれなりにできていた。そして、ほむらには秘密があった。
――それは、魔法少女であること。
それとは別になぜかまどかがほむらに追われる形となっていたため、さやか自身はほむらに対してあまりいい印象を持っていなかった。それは魔法少女であってもなくても変わらない。
好きか嫌いかと聞かれればどちらかといえば、さやかにとっては嫌いともいえた。
「ん? どうかした?」
 さやかがそんなことを考えてることも知りもしない杏子が尋ねる。
「うーん――」
杏子がその転校生と同じ魔法少女であることをさやかは知らない。さやかが知っているのは、巴マミによって、暁美ほむらという悪い魔法少女からまどかとともに助けられたという事実のみである。
「いや、終わったところだけど。あんたにそれが何か関係あるの?」
 さやかが目を細めるとそういった。さやかはいつも通り病院に行く予定があるだけで他に特別な用事はなかった。病院にいくことがある意味でさやかにとってはとても大切なことだった。
 帰る途中に、杏子がいようといまいとさやかの予定は何も変わらない。
「ん、いや関係ないけどさ」
「そうだ……、あんたさぁ、少女消失事件って知ってる?」
 さやかが心配そうに杏子にそういう。それは学校で先生が話していたことだった。
 若い少女が、毎日1人ずついなくなっていること。見つかるのはその少女の血か、衣服のみ。警察は事件だと判断し、調査しているが何もつかめていない。
 といっても警察はいつも曖昧さが目立つため、対してさやかはいい考えを持っていない。
 学校からは各自注意するとのことで、親御宛の連絡紙ももらっていた。
「なにそれ、おもしろいのか?」
 杏子は客観的にその事件の原因を知っていた。魔法少女であれば、誰でも知っていること。
 ――魔女に“魔女の口づけ”をされたものは必然的に魔女に落ちる。
 さやかに気付かれないよう普段通りの対応を心がけた。そうすることでさやかが自分と同じ場所にこないと杏子は思ったからだ。
「はぁ……、あんたさ、もう少し世間を知っておきなよ。あたしがいえたことじゃないのはわかってるけどさ」
 ある意味予想をしていた答えだったためか、頭を抑えたさやかがため息をつく。
「別にアタシは興味ないし、これからなんてどうでもいいさ。それに……」
 杏子がさやかを見つめる。
「そ、それに何よ?」
 その視線があまりに直線的に見つめてきたのでさやかが顔を赤らめると慌てて目をそらした。
「別になんでもねーよ。それよりもゲーセンいこーぜ、さやか」
 少し顔を緩めた杏子がさやかの右手を引くと、坂を下ると走りだす。
「ちょ、ちょっと待って、引っ張んなくてもいくからさ!」
 それに合わせるかのようにさやかも走りだす。その顔は言葉とは裏腹に笑っていた。
公園の時刻はさやかの行く時間まであと数十分を示していた。

☓ ☓ ☓

「へぇ、相変わらず、うまいね。それもむかつくくらいに」
 様々なゲーム音や雑音が混じったゲームセンターで、杏子のゲームプレイを見た感想をさやかが皮肉を言いたそうな顔でそういう。
 ゲームセンターに着くやいなやすぐに杏子はダンスゲームにお金をいれた。ゲーム自体は非常にシンプルなもので、画面の中のキャラクターが何か音楽に合わせて踊っており、それに加えてちょうどよく画面に表示されるボタンを足のボタンに踏むものだった。
杏子のダンスゲームの腕は、観客ができるほどすごくうまく踊れており、この街のほとんどのゲームセンターにランクインしているほどであった。ただ、それほど有名になっているにもかかわらず杏子を知っている人間はほとんどいなかった。それに疑問をもってさやかは一度調べたが、何もわからなかった。
 ――誰も知らない少女“佐倉杏子”がここにいた。
「さやかもそういわずにやればいいじゃない? ほら隣空いてるしさ」
 ゲームのステージが終わったのか杏子がさやかの方を振り返る。そのプレイ画面には、パーフェクトとかかれており、ミスが1つもないことを表していた。
 今日は杏子を見る観客は誰もおらずゲームセンターはいつもと違い静寂だった。
「あたしは、そういうの得意じゃない。どっちかというと聞く専門かな。ってかあんたの隣でやったら、あたしが比較対象最悪すぎて、残念娘じゃない? あはは」
 さやかが頭を掻きながら笑う。
 さやかは、杏子のを見よう見真似でダンスゲームをやってみたことがあるのだが、杏子がやってたものはもちろんのこと、初心者用の簡単なものでさえもクリアすることはできなかった。というよりかゲームの最後までプレイできていない。見てることとやることは違うとその時感じた。そこに敗北感があり、悔しかったので頑張ってはみたが結局は……、といった次第である。
「そうだけどさ。聞くって、恭介ってやつのヴァイオリンかい?」
 杏子が足で次に何の曲を遊ぶかを選ぶ。そして、いつもののお気に入りの曲を選んだ。
「そ、それはもう聞けないんだよ。言っただろ、恭介は左手がもう……」
 さやかが言葉を詰まらせると下をうつむく。さやかの様子がなんとなく予想できた杏子はそれ以上何も言わないと思い、
「そうだったな。でも、聞くだけじゃつまらなくない?」
 新しいステージに入り踊りながらそういった。ゲームから激しい音楽が流れるとそれに合わせるように、杏子の踊るリズムも早くなる。
「そんなことはないよ、あたしはそうやって恭介と一緒にさ……」
「恭介か……」
 ゲームが終わったのか杏子の動きが止まっていた。
「ん、どうしたの? いつもはパーフェクトなのに」
 さやかが見つめるゲーム画面では、ミスが大量にかかれており、『NOT CLEAR』と表示されていた。
「いや、別になんでもないさ」
 杏子がつまらなそうな顔をすると、ゲーム台から降りる。そうして、ポケットからチョコレートを取り出すと口に入れた。
「あ、ごめん。もう時間だからいくね」
 腕時計を見たさやかは表情を変えかばんを肩にかけると、
「じゃあね」
 そういって、ゲームセンターの入り口で一回手を振ると杏子の元を去っていった。
「恭介か……」
 それを悲しそうに見つめる杏子だけがそこにいた。
「……」
 杏子は奇跡か魔法が起きなければ治らない少年を思い出していた。
 ――上条恭介。
病院に入院しているさやかの幼なじみ。事故で身体が自由に動かない状態。
だからこそ、杏子はキュゥベぇに聞いていた。『あいつの腕って治せるのか?』と。
キュゥベぇは当然のように『そんなの簡単だよ、ボクと契約して魔法少女になればね!』と、嬉しそうにそう話す。
だけど、それは絶望の始まり。
杏子は自分自身が人の都合を知りもせずに願ったために、結局だれも幸せにならず、不幸になった。
だからこそ、さやかにはそうなってほしくないと心に杏子は願っていた。

☓ ☓ ☓

 あたしはいつもの時間通り恭介の病室にいた。
これがあたしの日課であり、唯一の祝福のときなのかもしれない。
「……」
 でも、恋人のような進展もなく“ただの友達”として過ごす。
 本当はどうしたいかなんて考えたことない。
――いや、考えないようにしている。
だからこそ、あたしは普段通りに会話するだけ、恭介が辛くないよう、音楽に少しでも触れていられるよう……。あたしは恭介の奏でる音楽が好きだから。
「……」
 でも、ここはいつもと違って沈黙が支配していた。
いつもならあたしを恭介は見てくれている。そして、音楽の話とかテレビ番組の話とか、学校での出来事とかの日常会話をしてる。少しでも恭介が外の空気に触れていられるように、病院にいてもみんなと同じようにいられるように。
でも、今日はあたしが来た時からずっと窓の外を見ていた。それは、どこか寂しさを感じる。空は夕日で赤く染まっていた。
きれいといえば、きれいに見えるけど、恭介は何を考えているのだろう。
 恭介、やっぱり……。
「っ! 何を聴いてるの?」
 沈黙をあたしは耐え切れなかった。
だから、イヤホンで耳を塞ぐ恭介に話しかける。
 そう、これはあたしのわがまま。聞こえていないかもしれないし、聞こえているかもしれない。
もしかしたら、音楽聞くのを邪魔しちゃうかもしれないから怒るかもしれない。だから、恭介の都合なんて気にしない、あたしの生意気ごと。
「……『亜麻色の髪の乙女』」
恭介が、ポツリと小さい声で答えた。
よかった。聞こえてたんだ。
答えてくれるってことは、邪魔をしてないってことなのかな? 恭介は相変わらず、部屋に入った時と変わらず外を眺めてる。
そこに何かあるのだろうか。夕日だけがあたしには見える。それ以外に何も見えない。やっぱ、音楽家とか芸術家には何か常人には見えない何かが見えたりするのかな? 
それとも鳥か何か飛んでたのか……、鳥といってもこの時間だとカラスか何かかな。
えっと『亜麻色の髪の乙女』というと……、脳内の記憶を遡ってみると、
「あー、ドビュッシー?」
と、出てきた。
確か、そんな曲だった気がする。間違ってたら、きっと恭介が指摘してくれるはず。そういうやつだし。うん。
「素敵な曲だよね」
最近は、聞いてないなぁ。
「あ、あたしってほら、こんなんだからさ、クラシックなんて聴く柄じゃないだろってみんなが思うみたいでさ」
 恥ずかしくて頭をかく。そうそうどちらかといえば運動大好き娘に見られてさ、こういうインドア系のものを知ってると驚かれたりするんだよね。人は見かけによらないってよく、まどかと話す。
「それでさ――」
話すのをやめない。
やめたら、また沈黙がこの場を支配してしまう気がするから。そうしたくない。そんなのはあたしが耐えられない。
「たまに曲名とか言い当てたら、すごい驚かれるんだよね。意外すぎて尊敬されたりしてさ」
 恭介は、相変わらず動かない。微動だにせず外を見続けている。
あたしの言葉を聞いてないか、聞いてるかもわからない。でも、あたしは声を出すのを止めなかった。声を出すことでもしかしたら、このいやな空気が変わるかもしれないし。
それにあたしにはそれ以外の方法がわからない。他の人だったらできるかもしれないけど、今のあたしはこうするしかない。
「恭介が教えてくれたから、でなきゃあたし、こういう音楽ちゃんと聴こうと思うきっかけなんて、多分一生なかっただろうし……」
「さやかはさぁ――」
 あたしの声を遮るように恭介がつぶやく。
「え、何?」
「さやかは、僕を苛めてるのかい?」
いつもと違い低い声で恭介があたしにそういった。
「えっ……」
「何で今でもまだ、僕に音楽なんか聴かせるんだ。嫌がらせのつもりなのか?」
恭介がイヤホンを外し、ゆっくりと窓を向いていた顔をこちらに向けると、冷たい目であたしを睨みつける。
「だって、それは……。恭介、音楽好きだから」
 だから、あたしは暇なときにいろんなCDとか探し回っている……。
 恭介のためだと思って……。
「もう聴きたくなんかないんだよ! 自分で弾けもしない曲、ただ聴いてるだけなんて。僕は……僕は……っ! さやかにはわからないんだ、僕の気持ちなんて!」
 その言葉と共に恭介は自分の左手を動いているCDプレイヤーにぶつけた。回転しているCDに巻き込まれて恭介の左手から血が飛び散る。ベッドのシーツと掛け布団が恭介の血で赤く染まる。
「やめて!」
恭介の動きを抑える。これ以上自分を傷つけないで……!
「動かないんだ……もう、痛みさえ感じない。こんな手なんてっ! 血が出てるだろ? でも、それだけなんだよ。痛みも何もない。ただ、何かが流れているだけ? 何も感じない自分を気持ち悪いとさえ感じるんだよ!」
絶望した目で、あたしを見る。
――もう生きるのがつらい、そう訴えてくる。
「大丈夫だよ。きっと何とかなるよ。諦めなければきっと、いつか……」
 先生がなんとかしてくれる、きっと。だってそうでしょ、医者なんだからきっと治せる。
「諦めろって言われたのさ」
「えっ……」
恭介があたしを睨みつける。それはさっきと違い強い意志があった。
「もう演奏は諦めろってさ。先生から直々に言われたよ。今の医学じゃ無理だって、僕の手はもう二度と動かない。奇跡か、魔法でもない限り治らない」
恭介がうつむく。もうここには絶望しかないと語るかのように。希望なんてものはもうない、そう拒絶する。
「あるよ」
こんな恭介は見たくなかった。
「え?」
 だから、あたしは勢いで言ってしまう。
「奇跡も、魔法も、あるんだよ」
――と。
でも、それはあたしのやっと決めた答えだった。それが大変なことはわかっているつもり。

☓ ☓ ☓

 学校のチャイムが学校中に鳴り響く。
それは終了の鐘で教室のみんなが一斉に騒ぎ出すと、各々かばんをもって教室の外へ出ていった。
 部活に行く人、帰る人、寄り道する人とそれぞれだ。
 ここにいるほとんどの人は知らないだろう。この日常が本当は魔法少女と呼ばれる少女が必死に守っていることを。とはいっても、あたし自身も最近知ったことだけどさ。
「まどか、ちょっとマミさんの部屋にいくんだけど、一緒に来る?」
 まどかに聞こえるように大きな声を出す。どうせ、誰も聞かないことだし。みんな自分のことで精一杯だ。それにもう、ほとんど教室内には残っていなかった。
「うーん、ちょっと今日は無理かな。仁美ちゃんにちょっと用事頼まれたから」
 鞄の中に教科書とノートをしまい込む。まどかはまだ荷物の整理が終わっていないみたいだ。
「そういえば、仁美は?」
「うーん、なんか先生に呼ばれて、チャイムが鳴った瞬間ぐらいに出ていっちゃったよ?」
「ふーん、そうなんだ」
 気づかなかった……。ま、いっか。
「そっか、仁美ならしょうがないね。じゃぁ、また明日ね」
 まどかに手を振ると、足早に教室を出た。
 目的地は、マミさんの部屋。
あたしは決めてしまった。魔法少女にあたしはなる。
 この後、マミさんにそう話す。そして、そのままキュゥベぇと魔法少女として契約する。
 恭介にあの宣言をしてからあたしは、どうやって、恭介の病室を出て家に帰ったのかわからない。気づいたときにはもうベッドの上から仰向けに倒れて天井を見つめていた。それから色々考えたけど、やっぱり出てくる答えは一緒だった。
奇跡と魔法でしか治せないならあたしがそうするしかない。それができる現実が今、目の前にぶら下がっている。
だけど、それをつかんでしまえばあたしは普通の日常へと戻れない。魔法少女として、魔女を倒す毎日が始まる。
 ――マミさんと一緒に。
 マミさんとの出会いは、まどかが転校生“暁美ほむら”に絡まれたときだった。無我夢中で転校生からまどかを守ろうとして走ってたら、あの空間。魔女の結界と呼ばれる、魔女が支配する世界にいた。そこでマミさんがあたしたちを助けてくれた。そして、あたしたちは魔法少女ということと、魔女という存在、魔法少女になると奇跡が叶うことを知った。
ただし、その見返りとして魔女として戦わなければいけないことが存在することもしった。だからマミさんはあたしたちに時間という猶予をくれた。
「……」
 ――怖くない。
そう言いたいけど、本当は恐い。でも、それはきっとマミさんの手助けになる。こんなあたしでも人の役に立つ日がくるんだ。
「ふぅ……よし」
 顔を叩く。音がなるくらい叩いたからもしかしたら、赤く目立つかもしれないだけど、少し気合が入った気がする。
恭介のために、あたしは魔法少女になる。別にそれはあいつに頼まれてやるわけじゃない。全ては、あたしのため。恭介の引くヴァイオリンがもう一度聞きたい、ただそれだけ。
気がついたら、屋上に来ていた。
――あれ、おかしいな。どうしてだろう。
「……ふぅ」
大きく息を吸うと、ここからみえる世界を見つめる。何事も無く歩く人、動く車、飛ぶ鳥……。
これは表の世界で、あたしたちが知らない裏の世界が存在している。心ではわかってるけど、身体は正直ってやつなのかもしれない。
身体が震えていた。
「……」
銀色のフェンスを掴むと、反発するようにあたしの指を押し上げる。その触感が何かここが現実であるという意思表示に感じた。
「まどか……」
 学校からまどかが走っていくのをみつけた。学校の門に仁美が立っている。きっと、待ち合わせていたんだろう。
まどかとは、もう別の道を歩いていくことになる。
「……」
 ――まどかにこのことは相談しなかった。
 あの娘は関係ない。そうあたしが叶えたい夢があるだけ。
「よし、いこう」
 かばんを強く握り締めると一歩前へ歩き始める。マミさんの部屋までそう遠くない。屋上から階段を降り始めると少しずつ駆け足になっていくのを感じた。

 ――それが……、あたしが、あたしといられた最後の時であった。

☓ ☓ ☓

「はぁぁぁ!」
 あたしに群がる使い魔を斬りつける。何度も何度も。それは空から、地中から空間どこからでも現れる。魔女の結界内にいるのだから、当然といえば当然であろう。
あたしにとって、魔女が敵であるように、魔女たちにとってあたしは敵。だからこそ、こうして、魔女の元へと行かせないようにする。
「ぐぅぅぅ」
 あたしはマミさんと一緒に魔女の結界へと突入していた。学校の帰りにマミさんが魔女の気配に気づいてやってきたわけだ。まどかは、ちょうどよくあたしと行動を別にしていた。だから、ここにはいない。
正直、良かったと思っている。こんなヘタクソな戦いをするあたしを見せたくなかった。それでなくても、もうまどかはこういう場所に連れてきたくない。
――せっかく一度友だちを救うことができたんだ。ここにもう一度手を引くことはあたしにはできない。でも、あの娘はそんなことを望んでないかもしれない。魔法少女になったあたしの姿を見たまどかは、すごい顔していた。
でも、『ありがとう。私二人のこと応援しているからね』と納得してくれたように話してくれた。
それがあたしの初めての魔法少女としての仕事だった。
その結果として、魔女の口づけをされた仁美とそれを追いかけていたまどかを救った。それだけでも、あたしは魔法少女になってよかったと感じた。
まどかとそれからの付き合い方も変わらない。魔法少女になる前のあたしと同じようにまどかは接してくれた。あたしがいる世界をあの娘は守っていてくれているような気がして、嬉しかった。
 だから、この魔女の空間にはマミさんとあたししかいない。
 ……転校生はもしかしたら、どこかにいるかもしれないがそんなことを考える余裕はない。使い魔があたしたちの進行を食い止めようと襲いかかる。それをあたしは斬り、マミさんが撃つ。
 前衛と後衛という立場だ。
「へや!」
 使い魔が一点に集まるのを予測し、そこに飛び込む。それは先程使い魔が攻撃したパターンであった。この予測は見事に的中し、20体ほどの使い魔を一度に撃破できた。
 行動が分かれば、あとはあたしにもできる簡単なこと。
 まぁ、サッカーでもバスケでもわかりきっていればわかってるほど楽なもの。
 右手に握りしめられた長剣を振るう。時に投げ、相手を切り裂くあたしの武器。マミさんと違って、直接近づく必要が多い武器だけどあたしの動きに合わせるのに適していた。
深いことを考えず、ただ振ればいい。そうするだけで、倒すことができる。
「ふぅ……」
 このあたりの敵はあらかた倒したかな。あたしもやればできるもんだ。踏み込むときに深く吸い込んでいた息を吐き出す。
「美樹さん、後ろ!」
「後ろ? うわぁ」
 マミさんの声に反応し、後ろを振り返ると目の前に使い魔が鎌で振りかざそうとしているその瞬間であった。
「……あっ」
それを避けることは無理そうだった。
身体が、手が、右手が動かない。それが徐々にあたしに近づいてくる。それは、スローモーションで何秒にも感じられる。
――ここで死んでしまう。
脳裏にそれがよぎった。走馬灯って、こういうことをいうのかな……?
「っ!?」
 だが、その鎌はあたしの首にぶつかる寸前に消滅した。使い魔本体と共に。
「大丈夫?」
 その消滅する向こう側にマミさんがマスケット銃を構えながらこちらを見ていた。そのマスケット銃は、白い白煙をあげている。あたしに攻撃がこなかったのはマミさんが補助してくれたからだと思う。
また、やってしまった。
どうしてだか、一度倒すと安心感に包まれてぼーとしてしまう。癖ではないが、なぜかそうしてしまう。きっと慣れていないだけなんだと思いたい。
「だ、大丈夫です。ありがとうございます」
 勢いよく頭を下げる。恥ずかしかった。そうしてしまうあたしが。だから、声を上げ頭を下げる。
「すみませんでした」
 と、マミさんに言った。
「な、何を言っているの美樹さん? ほら、頭をあげて」
 マミさんがそんなあたしを見て、瞳を大きくしていた。
「は、はい!」
 マミさんに支えられる形で身体を起こされると、マミさんは笑っていた。すごく優しい顔で。その笑顔に少し後悔と、安心感を得た。
「大丈夫よ。私とあなたはペアなんだから、美樹さんは私が補助するわ」
「で、でもそれじゃぁ……」
 それは、あたしが結局マミさんの手助けじゃなくて足を引っ張っているだけだ……。マミさん一人でいけばいい、そう感じてしまう。
「だから、かわりに私を補助してよね」
 マミさんがあたしにウィンクした。その言葉はとても嬉しかった。思わずにやけてしまう。
「はい!」
 長剣を強く握り締める。今度からはもう失敗しない。あたしはマミさんを補助するんだ。
「じゃぁ、行くわよ。まだ先にいるみたいよ」
 結界の奥へと歩き始めたマミさんが、一度振り返ると優しい顔を一瞬見せた。そして、まわりを確認すると奥へと一人先に歩いてしまう。あたしも置いていかれないようそれについてく。
 その後姿は、すごく眩しくてあたしもこんな人になれるのかって、思ってしまう。
それから、あたしは魔法少女として、一歩一歩前へ進んだ。とはいっても、マミさんの後ろについていって一緒に戦っているだけだけど。
やっぱ、マミさんはすごいと思う。
 あたしなんかと比べものにならない。そもそも、比較なんてできないや。あたしが足を引っ張っている。それが事実。でも、そんなことをマミさんは一言も言わない。強くならなきゃ! 『マミさんの後輩だ』って胸をはれるように。

☓ ☓ ☓

「マミさん、これで最後ですか?」
 長剣を引き抜くと、魔女の使い魔が消滅する。これで何匹目だろうか。この結界に入ってからもう5度目になろうと思われる襲撃。
 いずれも魔女と思われるモノとは遭遇していない。ただ今回みたいに大量の使い魔があたしたちにちょっかいをだしてくるだけ。
「そうみたいね。魔女もいないみたいだし」
 魔女は今回もいなかった。
 使い魔だけ。とはいっても、ボリュームが半端ない。
「そうですか……」
 ふぅと溜息をつくとその場に勢い良く座り込む。
「はぁー、疲れた」
「ふふ、上出来よ」
「そうですか? あたしちゃんとできてますかね?」
「えぇ、これなら私の後輩として紹介できるわ」
「へへへ、そう言われると照れちゃいますね」
 ちょっと恥ずかしくなって頭をかく。
「さて……帰りましょう。私たちの日常へ」
 マミさんは魔法少女の服装から普通の服へと変わった。それと共に魔女の結界もなくなっていた。
「結局、魔女今回もいませんでしたね」
 最近は、魔女に会わない。使い魔だけ。それも何か都合いいタイミングであらわれる。こちらの様子を伺うように。
 魔女は呪いを振りまく存在だ。そんな意味のないことはおそらくしない……はずだ。
「そうね、でも、使い魔だとは言っても頬っておけば人を脅かす害となるわ」
「そうですね!」
「そうだわ、美樹さんに紹介したい娘がいるの」
「紹介? 人ですか?」
「そう、“魔法少女”よ」
 そう言って、あたしたちは解散した。魔女の痕跡があればお互い報告しあおうと決めて。

☓ ☓ ☓

教室内が騒がしかった。『明日休みだから遊びにいこうぜ』とか、『隣のクラスの金田さんがコクられたらしい』とつまらない話をしている。
それは日常では当たり前のことで、例えあたしが魔法少女でなくてもあった話だ。
そういう会話を実際にあたしもしていた。今はあまりそういう気分になれない。
「はぁ」
 思わずため息がでる。
以前あたしがいた世界。
今あたしがいない世界。
魔法少女。魔女。みんなはその存在を知らない。だからこそ、笑っている。守られる世界から、守る世界へとあたしは飛んだ。
マミさんと守る世界。いわば、ヒーローみたいのもの。そういう世界にいるんだ。顔色がかわっていたのか、まどかが「大丈夫?」と心配そうに声をかけてきた。
「うん、平気。大丈夫だよ」
 平気そうに演技して答えた。
まどかには、こっちの平和な世界にいてほしい。あたしには叶えたいものがあった。だからあたしは、魔法少女になった。だけど、まどかはそういうのはない……と思う。少なくとも小さい頃から一緒だったけど、まどかにはそういうなりたい自分ってのが曖昧ってかないように見える。まどからしいといえばまどからしいけど。
 だからこそ、いざというときまでそのことから離れて生活してほしい。魔法少女になってからわかったけど、やっぱりマミさんがいうようにこれはきつい仕事だった。まどかをいつ守れなくなるかわからない。
「……ん?」
 いつもと違って、人が少ない。
何人かは“少女消失事件”に巻き込まれたとかなんとかと聞く。本当なのかどうかはわからない。
だけど、今になってわかる。きっと少女消失は魔女の口づけのせいだ。それによって、魔女に食われたか、使い魔に殺されたんだろう。学校内まで被害がでてるなんて、やっぱ追ってる魔女は早く倒さないといけない。
学校では、安全となるまで学校閉鎖を行おうとしている動きがあるみたいだけど、結局魔女にとってはそんなこと無意味だろう。
――その魔女を殺さない限り。
 早くこの現実を招いている魔女を倒さないと手遅れになる。そう考えていると、
「あっ」
 転校生と目が合った。口元が動く。声は聞こえなかった。
 けれど、頭の中で声がした。あたしたち魔法少女だけが聞こえる声で、
『まどかは、私が守る』
 と、そういって転校生はまどかと一緒に廊下へ出ていった。
 かばんをもったあたしは、地面をけると走りだす。転校生とまどかとはち合うのがいやで、反対側に走った。後ろからまどかの声が聞こえた気がしたけど、聞こえないふりをする。強く目を閉じると、足に力を入れた。
 転校生というのが不安だけど、何も知らないやつより知ってるやつが守るって言ってくれるのは少し心強かった。でも、信じない。
あたしにはまどかはまだ守れない。
――これが魔法少女の世界……か。
マミさんとまた、魔法少女としての仕事をしなければならない。ヘタをしたら、また罪のない人が魔女に殺されるかもしれない。だからできるだけ急いだ。もう、だれも消失させない。見つけて倒す。
「はぁ……はぁ……!」
 不思議と走っているのに疲れない気がした。魔法少女としての何か違う力なのだろうか?

☓ ☓ ☓

「えっ」
 魔女の気配を追ってやってきた敷地には、予想外の人物がいた。
「なんで、ここで子供がいるんですか?」
 それは子供だった。しかも、女の子でちょうど魔女の結界に入れる場所の前に陣取っていた。あたしはきっと変な顔をしていると思う。だって、それだけ想定外なことなのだから。
「ユキね。子供じゃないモン!」
 身長110cmといったところか、見た目子供。小学生なのかな。ランドセルがすごく似合いそう。
 とにかくすっごく小さい。それが第一印象だった。
 この子がいるのはまさか、魔女の口づけのせいなのか? 
でも、それはある意味催眠術のようなものでこうもはっきりと自分の意思をもっているものじゃない。
 そう、意識がなく。いわゆる無気力状態というやつだ。
 結界の入口の前に座っていたから、もしかして魔法少女? いや、魔法少女ならとっくに入っているかもしれないし、マミさん以外の魔法少女は……と、転校生ぐらいしか知らない。転校生が何をしているかは、マミさんも知らないみたいだけど、どうやら魔女を倒したりするのは邪魔してこないみたいで、何か別の目的があるんじゃないかとマミさんが言ってた。
 あたしは別にどっちでもよかった。あの転校生はなんか信用出来ないし、したくもない。だから、それ以外の魔法少女をあたしは知らない。
「ここは危ないから、さっさとあっちいってな」
こんな小さい子が魔法少女なわけがない。女の子の肩を掴むとそのまま、敷地外へ押し出そうとする。そう、今から戦うのは魔女。人間が太刀打ちできる相手ではない、あたしたち魔法少女をおいては他にいない。それにまたマミさんと一緒に行くのだ。あたしができることをする。だからこそ、こういうのに巻き込んじゃないけないんだ。そう、まどかのように少し距離を取らなければいけない。
小学生は家でゲームしてるか、おままごとしてるか親の手伝いをしてればいい。
「やーだー、ユキもいくの!」
 女の子が足でブレーキをして、なかなか進まない。子供の癖に、すごい力でなかなか押し出せない。これでも結構本気に近い力を出しているというのに……!
――生意気。
「マミさんもなんか言ってくださいよ」
 助力を求めるように後ろを振り返る。
「それはね」
 マミさんは口に右手を添えると、何が可笑しいのかすごく笑顔でいた。「そんなことしてないで助けて下さいよ」とは言えない空気だった。なにより、マミさんだ。何か考えがあるのかもしれない。うん、きっとそう。あたしの大先輩だもの。
 さらに力を込めようとした瞬間、
「もう、こうしちゃうもん」
「えっ!?」
 女の子が力を緩めてあたしの手の呪縛から離れしゃがみ込んだと思うと、そこから空に跳んだ。
 
――空に跳ぶ。

そういう距離であった。
距離にして、あたしのイメージでビル4階分。その飛距離をその女の子は、助走も補助も何もない状態でその場で跳んでいた。
「え、えぇ、どういうこと!?」
 そして、落ちてこない。完全に空に浮いていた。飛んでいるといったほうがいいかもしれない。
「あぁ、美樹さんには言ってなかったかしらね。彼女も魔法少女よ。金田ユキ。私はユキちゃんって呼んでるわ。以前言っていた紹介したい女の子よ」
 マミさんが雪のほうを向きながらそういった。
「ユキちゃん……?」
 ユキちゃんと呼ばれる女の子は依然として、空にいて落ちてくることはなかった。魔法少女は空を飛べない。そう、それがあたしの中に暗黙の了解としてあった。あたしが飛べないし、マミさんも飛んでいない。
 だからこそ、不思議にみえた。なぜ、ユキが空を飛んでいるのかが。
「マミさん、あのこ落ちてこないけど?」
「そうね、それがあのこの魔法の力かしらね」
 マミさんが落ち着いた声でそう話す。
「それはどういう意味?」
「それはね……」
 マミさんの話だと飛行機が事故で落下しているときに、キュゥベぇと契約したみたいだということだ。死なないように空を飛びたい。だからこそ、ユキは飛べるのだと。
 あたしも空を飛びたいと昔思ったことがある。小さい時にみたものの影響。実際、あたし、あたしたちも空を飛んでいるようなものだった。ジャンプ力なんて普通の人間の何倍も跳んでいる。落ちてくるときがまさにそれ。でも、それはどちらかといえば滑空していると答えたほうがいいのかもしれない。ただ、空と呼ばれる空ではなく、“魔女の結界内の空”限定であたしたちは跳ぶ。
 キュゥベぇが言っていたのを思い出す。祈りの結果により、魔法少女の能力が決まるみたい。だからこそ、あたしはすぐ傷とかが治る。らしい。
「飛べるとは言ったけど、アレがないと無理みたい」
 マミさんが指さす。
「……あっ」
 ――傘。
遠くてあまり見えないがそんなものをユキは持っている気がする。とはいっても、魔法少女となってからは、遠くの距離のものはある程度はっきりみえるようになっているんですけどね。だからこそ、傘といえる。あれは傘だと。
「傘ですか?」
「そうね」
 マミさんに尋ねると間違っていなかった。でも、どうして傘……? 攻撃手段として役に立つのだろうか? 傘は、日傘とか雨傘っていういわゆる天候に対する武器のようなものなけど、それを物体破壊兵器にはできない。確かにあれでおもいっきり叩いたら痛いだろうし、目とかに先っぽ入れたらたいへんなことになると思うけど……。
「えぇー、でもどう考えても持ってるの傘ですよね?」
「そうね、傘よ」
「うーん……?」
 頭をひねるあたしの前に音もなく着地したユキが、空の色を表した水色と白の雲の模様がある傘を開いたり閉じたりしている。
これが武器ね……。ありえない。まじ、ありえないんですけど。
「よいっしょっと。えへへ」
 というか、さっきまで上にいたのに……なんて落下速さなんだろう。気付かなかった。
 あー、よく見たらいつのまにか魔法少女の服装になってる。うさぎの耳に、全身白のうさぎのコスプレのような着ぐるみって……。
 ――まさに子供。そういえる。
「あんたそれで何ができるの?」
「全部だよ」
 間髪入れずにユキがそう答えた。上等じゃない。ちょっと試してやる。マミさんに目を送る。
 マミさんは『しょうがないわねぇ』という感じにため息をついた。
 あたしは、ソウルジェムを前に掲げると魔法少女に変身した。白いマントを羽織ったあたしだけの服。
「じゃぁ、これも防げるんだよね?」
 あたしを中心として長剣を36個召喚する。
「うん……?」
 それが何かを理解していないのかユキが頭を傾げる。あたしは、一回転すると全てユキに投げつける。
 ――大丈夫、かすりもしない位置に投げる。
へたをすれば、“いけないところに当たるかもしれない”けど、そのときは家に帰ってアニメで見てもらっていよう。魔法少女であるならば大丈夫。
 そう、軽い気持ちであった。
「な、な、な……!」
 しかし、その結果は期待を裏切る形となった。あたしが投げた長剣は、当たることはなかった。
 全て、ユキの後ろにある壁に刺さっている。
しかも、それほど強くも早くも投げていないはずなのに、刀身は見えない。深く壁に入り込んでいた。確かに壁に刺さそうとすれば可能。でも、これは違う。よほどの速さでなければこうはならない。
つまりは、そうなる何かのことをこのユキはしたということだ。
「?」
 ユキは何が起きたのか、自分でもわからないって顔をしている。
「彼女は、あれでなんでもできてしまうのよ。そういった意味でいえば私のコレよりは使いやすさはあるかもね?」
 いつの間にか変身している黄色い服を着たマミさんがあたしにマスケットを見せる。
「……」
 あたしの長剣ですら同じようなことはおそらく無理であろう。
「ん、お姉ちゃんたちどうしたの? ほら、行かないの? 魔女を倒しに」
「そうね、行きましょうか」
 そういって、マミさんが魔女の結界の入り口を開いた。
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